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ローマ時代のお屋敷跡、ラリングストーン・ローマン・ヴィラ(※閲覧注意)

絶好のお天気の週末があり、無駄にしてなるものか、絶対何処かに出掛けなければ~と思いましたが、丁度学校の夏休みが始まったばかりで、どの高速道路も非常に混むとニュースで警告していました。そこで、高速道路を通らずとも行ける場所として、EH(イングリッシュ・ヘリテイジ)の「Lullingstone Roman Villa ラリングストーン・ローマン・ヴィラ」と言う遺跡を選びました。
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ここは、10年程前に一度訪れたことがあるのですが、その時はEHの会員ではなかった上に、入り口の売店から遺跡を覗くと、見た目の割に入場料が高かった為、結局入り口だけで帰ってしまいました。
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ところが、約10年後に訪れて見ると、すっかり改装されていました。遺跡自体は当然変わらず、屋根で覆われているのは同じですが、設備や説明が色々改善され、ずっと充実して見えます。
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イギリスに、古代ローマ時代の遺跡は結構あちこちにあれど、軍事施設跡がほとんどで、ここのように一般人の住居跡と言うのは珍しいと思います。ここに住んでいたのは、ローマの退役軍人とも、ローマ化したブリトン人とも言われ、はっきりしたことは未だ分かっていません。しかし、属州ブリタンニア(イギリス南部のローマ時代の名称)の知事クラスの裕福な一家の屋敷であったことは、ほぼ間違いないと推測されています。更に、ブリタンニア総督であった皇帝ペルティナクスの一家も、一時滞在したのではと言われています。
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お金持ちのお屋敷とは言え、その後の時代のマナーハウスや宮殿とは、比べ物にならない程の小さい規模です(イギリスの普通の大きめの家ってかんじ)。しかしその中で目を引くのが、屋敷の1/3位の面積が、浴場で占められていること! 熱い湯、中位の湯、ぬるい湯の浴槽の他に、入浴後の団欒場などもあったそうで、まるで公衆浴場規模です。言わば、銭湯に住居がくっついていたような屋敷。
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古代ローマの水道技術は、20世紀初頭並みに発達していたと思われます。当時は上下水道が完備していた為、疫病の流行も少なかったとか。…それが何故、その後の千五、六百年もの間、すっかり忘れ去られて、文明は後退してしまったのか?? この屋敷にも、温水パイプに寄る床暖房さえあったようなので、快適さと衛生面においては、18世紀の宮殿より遥かに上だったはずです。
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浴場の近くには、井戸が。御丁寧に水が貯めてあり、水底に照明まで設置されています。
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この一段低くなった部屋は、上階はキリスト教会で、この下に一族の秘密の宗教儀式用地下室があったと言われています。表向きはキリスト教徒でも、未だローマ神話信仰が根強かったようです。
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数十分毎に、遺跡の中央のスクリーンに、子供でも分かり易い説明のビデオが上映されます。
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そして、ローマの遺跡と言えばモザイク床。ここは玄関ホールと食堂部分で、図案は共にローマ神話の、上が「キマイラ(キメラ)を退治するベレロポーン」、下が「王女エウロパの誘拐」を表しているそうです。
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このモザイク画の文様の中に、「卍 まんじ」の混じっているのが、非常に面白いと思いました。仏教やヒンドゥー教の聖なる印なので、日本の寺院の地図記号として使用されて来た訳ですが、トロイの遺跡でも発見されているそうです。卍は「svastika スヴァスティカ」と呼ばれ、太古から愛と守護のシンボルとして、ヨーロッパでも長い間愛されて来ました。しかし、20世紀にナチスドイツがハーケン・クロイツを使用して以来、それに似た卍の印象も最悪になり、今でも使用し続けているのは、フィンランド空軍位だそうです。
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この遺跡の壁画から、初期キリスト教のシンボルである「CHI-RHO カイロ」と呼ばれる印が発見され、ブリテン島における最初のキリスト教の痕跡と言われています。そう言う意味では、この遺跡は世界遺産クラスかも知れません。現在このカイロ壁画自体は、大英博物館に展示・保存されているそうです。
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銅像も発見されています。恐らく館の主を表しており、玄関の階段部分に飾られていたようです。
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屋敷の裏の丘の斜面に、一族の霊廟があり、鉛製の棺が発見されました。
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棺の中には、24歳位の男性の遺体が。この他、同年代の女性の遺体も側で発見され、この男性の妻か姉妹であったと言われています。
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興味深いのは、棺がホタテ模様と縄目で装飾されていること。この手の棺は、イギリス中のローマの遺跡で発見され、近年ロンドンのスピタルフィールドで発掘された、完璧な状態の鉛製の棺(石棺の中に入っていた)にも、同じホタテと縄目の装飾がありました。ホタテは、キリスト教では巡礼のシンボルですが、古代ローマでは再生・転生の象徴だったと言われています。
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一方、浴場前からは、新生児の遺体が計4体発見されました。出生届けを未だ出していなかった為か、正式な墓地には葬られなかったようです。
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これは、墓所の副葬品。左のメダル状の物は、ゲームのコマです。右のガラス瓶は、ヴィクトリア時代のガラスと変わらない見た目。そう言えば、ウラン・ガラスは、19世紀中期に製造され始めたと言われていますが、実はローマ時代にも存在したそうです。
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ローマ時代の衣料を復元し、試着出来るコーナーも。
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壁の構造の説明。浴室の壁には、一番上部のような壁画が全面描かれていたと考えられ、本当に銭湯みたいだったと想像します。
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素焼きの屋根瓦に、仔猫の足跡が残っていました。この他にも、犬や羊や牛の足跡が屋根瓦から発見され、そもそも何故わざわざ動物が踏み易い場所に天日干しするんだと不思議に思いますが、今では当時どんな動物を飼っていたのかを証明する、貴重な歴史的資料です。
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説明板のイラストも、味があって良いですね。結構著名な絵本作家が作成したかんじ。
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悲報! 私はローマ時代の成人女性の平均身長(163cm)より、10cm以上も低かった(涙)。男性も、この時代は平均身長が169cmもあり、現在の日本人男性と大差ありません。ところが、返ってその後の中世から近世までは、西洋人男性でも平均身長が160cm未満だったようで、ローマ時代の食生活が、いかにバランス良く充実・発達していたかが伺えます。
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屋敷跡を見学した後は、背後の丘も登ってみました。ここからは、神殿、霊廟、離れの厨房跡が発掘されています。
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とは言え、現在その場所を示すのは、円形の神殿跡のみ。
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この他、屋敷の前の川に近い場所には、穀物庫が立っていました。今では平凡な田舎の丘の斜面で、何故こんな辺鄙な場所にお屋敷を?と思いますが、すぐ近くを流れる川はテームズに通じ、交通輸送の便は非常に良かったそうです。小規模とは言え、古代ローマ人の生活ぶりを感じ取れる、興味深い遺跡でした。10年前に比べ、数段整って充実した現在の設備で見学することが出来たのが、満足の決め手だと思いました。




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by piyoyonyon | 2016-08-14 15:22 | 旅行・お散歩


こんにちは! ぴよよんです。英国から蚤の市等で出会った愛しのガラクタ達を御紹介する雑貨手帖も2冊目となりました。1冊目と共に宜しくお願い致します。


by piyoyonyon

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