英国最古の教会壁画

ある日の昼食時間、いつものようにテレビの古物番組「Bargain Hunt」を眺めていたら、イギリスでは割と貴重なサクソン時代(5~11世紀)の教会の中でも、国内で最古級、尚且つ保存状態も最高クラスの壁画が残ると言う教会が紹介されていました。場所は、ウェスト・サセックス州の「Pulborough プルボロー」近く。うちから遠くないじゃないかと言うことで、翌日夫婦で早速訪れることにしました。
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教会は、プルボローのすぐ南の「Hardham ハーダム」と言う村にあります。教会の正式名称は、「Church of St Botolph 聖ボトルフ教会」と言います。ボトルフは、7世紀のイースト・アングリアの修道院長で、「Botwulf of Thorney」 や「Botulph」、「Botulf」とも呼ばれ、旅行者と農業の守護聖人だそうです。
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サクソン教会の例に漏れず、小さく簡素な造り。情報がなければ、そんな特殊な内部を持つ教会とは絶対気付けない、何の変哲もない地味な外観です。
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この村は、「Southdowns National Park サウスダウンズ国立公園」の端に位置します。南側に、そのサウスダウンズの山(丘)並みが見えます。
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鐘楼は木製。多分、屋根からでないと登れない仕組みです。
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教会の外壁には、不思議な窪みがありました。古来、大陸からの進んだ文化の多くは、ドーヴァー海峡を渡ってイギリスに伝えられた為、その海峡に面するケント州(当時王国)は、サクソン時代にはイングランド内でキリスト教の一番発達した先進国でした。ところが、その隣のここサセックス(南サクソンの意味)は、意外にも、キリスト教化するのがイングランドでも最も遅い部類だったとか。
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今はヨロズ屋の一軒すら見当たらない、「village 村」よりは「hamlet 集落」と呼ぶのが相応しいような寒村ですが、ここは古代ローマ時代には重要な中継地でした。村を貫通する現在のA(国道クラス)29号線は、かつては「Stane (stoneの意味らしい)Street」と呼ばれる石畳敷きのローマの旧街道で、ロンドンとチチェスターを繋いでいました。この村でも、ローマ時代の駅舎や宿舎、村や浴場の遺跡が発見され、またその時代の建物や石畳の石材は、後に教会建設に再利用されたようです。
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内部も、想像した通り極めて質素。少し黴っぽい臭いがしました。後の時代のノルマン時代の教会と比べても、窓が極端に少ないのが印象的です。
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天井には、古めかしい木製の梁が。デヴォン州で一番古い建造物と呼ばれる、古城付属の茅葺屋根の礼拝堂を思い出させ、返って豪華絢爛な教会建築より、純粋な信仰心が感じられます。
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そして、壁画はほぼ内壁の全面にビッシリ描かれているのが圧巻。窓の側面にさえ、壁画が施されています。中には、イングランドの守護聖人聖ゲルギオウス(ジョージ)を描いた、英国最古の像も混じっています。制作者は、「Lewes ルイスの画家集団」だったと言われています。吟遊詩人のように、当時はこう言った流れの芸人達が、各地を旅行しながら仕事をしていたようです。
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多分、キリストの洗礼の場面。教会は、ウィリアム一世に寄るイングランド征服間近の1055年に建造されましたが、壁画が制作されたのは、それより遅れて12世紀と言われ、有名なバイユーのタペストリー同様に、「アングロ・ノルマン形式」と呼ばれています。
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主祭壇部分。実は「サクソン教会」と呼ばれる建物の多くは、単に起源をサクソン時代に持つだけで、後に何度も改装され、オリジナルの建造物は部分的にしか残っていない場合がほとんどです。ところがこの教会は、建設当時の姿をほぼ完璧に残しているようです。
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更に、壁画がここまで完全な状態で残っているのは、長年この上に漆喰が塗られていたからだそうです。19世紀になって、漆喰の下から壁画が発見されました。
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受胎告知の場面。壁画は、イギリスでは珍しいフレスコ画の技法で描かれました。イタリア等地中海沿岸ではお馴染みの手法ですが、ここイギリスでは、湿気が多く乾くのに時間が掛かり過ぎる為、フレスコ画が発達しなかったそうです。
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この教会の壁画の中でもアイコン的な、アダムとイヴの像。絵が余りにも稚拙で、一瞬どちらが男で女かは見分けが付きにくいのでした(笑)。
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壁画が制作されたのは、暗黒時代と言われる中世。はっきり言って芸術の分野は、技術的にも感性的にも、前のローマ時代から退化しています。この牛の絵も、ラスコー洞窟の壁画から進化なく無く見えます。
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とは言え、千年近くも昔の、特権階級ではない、一般市民の信仰心を、こんなに生き生きと伝える資料は、世界的に見ても中々ないのではと思います。
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バチカンのシスティーナ礼拝堂のミケランジェロの天井画より、300年以上も前に制作された教会壁画。うーん、非常に興味深い、貴重な物を見させて貰いました。これはイングリッシュ・ヘリテイジ級(歴史的建造物第一級には指定されている)、いや、世界遺産クラスかも知れません。入館は無料ですが、見学させて貰った後は、信者ならずとも感謝の気持ちを込めて、文化遺産保護の為にも御布施を忘れずに。




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by piyoyonyon | 2016-12-06 15:28 | 旅行・お散歩 | Comments(0)


こんにちは! ぴよよんです。英国から蚤の市等で出会った愛しのガラクタ達を御紹介する雑貨手帖も2冊目となりました。1冊目と共に宜しくお願い致します。


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